Robotics
機構摩擦の発生源と breakaway vs coulomb
摺動・転がり・粘性・歯車噛合の 4 種類と、静止摩擦 (breakaway) と動摩擦 (coulomb) の違い。Stribeck 曲線
要点: 機構摩擦は 4 起源 (摺動 / 転がり / 粘性 / 歯車噛合) に分解できる。動き出す瞬間の breakaway (最大静止摩擦) と、定常運動中の動摩擦 (coulomb) は別物で、典型的に 。
数字とコマンド
| 種類 | 典型値 | モデル |
|---|---|---|
| 鋼-鋼 摺動 (動摩擦) | μ_k ~ 0.1-0.2 | |
| ボールベアリング | μ_r ~ 0.001-0.01 | 摺動の 1/100 |
| 平歯車 効率/段 | η ~ 0.97 | 2 段で 0.94 |
| 遊星歯車 効率/段 | η ~ 0.94 | 2 段で 0.88 |
| ウォーム 効率/段 | η ~ 0.4-0.7 | 逆効率はさらに低い |
| 比 | 1.2 - 2.0 | breakaway が動摩擦の何倍か |
4 種類の起源
摺動摩擦 (sliding)
面と面の凝着・粗さのかみ合い。 (Coulomb 則、垂直抗力に比例)。
- 動摩擦係数 μ_k < 静止摩擦係数 μ_s (常に成り立つ)
- 潤滑膜が切れる (境界潤滑) と急増
- 温度依存性あり
転がり摩擦 (rolling)
ボール/コロが変形しながら転がる際の弾性ヒステリシス損失。
- 摺動摩擦の 1/100 - 1/1000
- ボールベアリング / コロ軸受で活用
- 玉数 · 予圧 · 潤滑グリースで変わる
粘性摩擦 (viscous)
潤滑油膜のせん断応力、空気抵抗、封止部の粘性。速度比例。
- 油の粘度 · 隙間 · 接触面積で決まる
- 冷えると増える (油粘度上昇)
- 高速ほど支配的
歯車噛合摩擦
歯面かみ合い中の相対滑り + 弾性変形損失。
- 平歯車: η ~ 0.97/段 (滑り少ない、剛性高い)
- 遊星: η ~ 0.94/段 (複数噛み合い、backlash 少)
- ウォーム: η ~ 0.4-0.7/段 (滑り多い、逆効率 ~0.3、self-locking)
- 段数で乗算: 6:1 減速を平歯車 2 段で作れば 0.97² = 0.94
- backlash: 段ごとに累積 → 起動時の遊び潰しに追加 torque
静止摩擦 vs 動摩擦
時系列で見る 4 状態
状態 摩擦の種類 モデル
────────────────────────────────────────────────
静止 (v=0) 静止摩擦 F ≤ μ_s·N (等号は限界)
動き出し瞬間 breakaway (最大) F_s,max = μ_s·N
動いてる (v>0) 動摩擦 (coulomb) F_k = μ_k·N (定数)
高速 + 粘性項 F = μ_k·N + c·v
────────────────────────────────────────────────- 静止時: 分子間力・凝着 (原子スケールで面が「くっついてる」)
- 動き出す瞬間 (breakaway): 凝着を切り離すエネルギーが必要 → F_s,max = μ_s·N
- 動いた直後: μ_s → μ_k に急落 → stick-slip 現象
stick-slip 現象
低速指令時に「動く → 止まる → 動く → 止まる」を繰り返す振動。
- 原因: 動き出すと μ が μ_s → μ_k に急落 → 加速 → 速度過ぎる → 制御が絞る → v=0 → 再び μ_s
- 発生条件: 制御系のバネ剛性が低い + 低速 +
- 対策: 静止摩擦補償 (stiction compensation)、剛性上げる、指令を smooth に
Stribeck 曲線 (速度 vs 摩擦力)
- v = 0: F_s (最大、breakaway)
- 極低速: 混合潤滑域、まだ高い
- 中速: 流体潤滑域で 最小
- 高速: 粘性項で再上昇 → V 字カーブ
各パラメータ
- : 静止摩擦力 (breakaway)
- : 動摩擦力 (coulomb)
- : Stribeck 速度 (F が F_c に落ち着く目安、~0.01-0.1 rad/s)
- : 減衰カーブの鋭さ (1-2 が典型)
摩擦モデルの階層 (制御でよく使うやつ)
| モデル | 式 | 用途 |
|---|---|---|
| Coulomb | 動作中の定常補償 (最も単純) | |
| Coulomb + viscous | 速度比例項も入れる (低摩擦機構) | |
| Stribeck | 上式 | 低速時の非線形性まで含む |
| LuGre / Dahl | 状態変数 z で履歴管理 | 高精度、微小変位追従 |
校正で測れるもの / 測れないもの
定常状態 dwell 測定 (SPEED mode 一定速で duty 平均)
測れる:
- 動摩擦 (coulomb): 各方向の一定 duty
- 粘性 (viscous): 速度依存の slope
測れない:
- breakaway torque: v=0 から抜け出す瞬間だけ支配
- stick-slip: 制御系との相互作用で発生する現象
- Stribeck の低速域再上昇: dwell 中に低速域で振動して測定が壊れる
breakaway は別測定 (v=0 で duty ramp up して動き出す点を見る) が必要。
多段ギア機構で fit の R² が上がらない理由
多段減速 (motor → gear stage 1 → stage 2 → 関節) の機構で duty = c·sign(v) + b·v fit の R² が 0.3-0.7 で頭打ちする。原因は 5 種:
1. 信号が小さい (SNR 律速)
低摩擦機構 (rolling bearing + gear 効率 94%×94% ≈ 88%):
- coulomb 摩擦 duty が ±0.02 前後
- ノイズが ±0.005 duty あると SNR = 4 → R² の上限 ≈ 0.7
判定: 変動幅が 3σ 未満なら R² は原理的に低くなる。
2. バックラッシュ多段累積
歯車噛み合い箇所ごとにバックラッシュあり:
- 2 段なら 2 か所の遊びが直列合算
- 反転直後: duty 上げても動かない dead zone
- SPEED PID が duty を積む → 遊び潰し終わって急発進
- 測定データに outlier が数点混入 → R² 押し下げ
3. Gear mesh ripple
各段が回転位置依存の効率変動:
- Gear 1 の周期 = 1/(rev × ratio_1)
- Gear 2 の周期 = 1/(rev × ratio_2)
- 2 段で 2 周期のリプル重畳
- dwell 中の duty 平均が周期変動を吸えない
4. 非対称摩擦
- ベアリング予圧の方向依存
- Gear mesh の押し引き方向依存 (Involute 歯形は摩擦非対称)
- 対称モデル
c·sign(v) + b·vは原理的に fit できない - viscous の符号が反転して見えることも
5. Stribeck 非線形性
低速域 (機構側 0.05 rad/s 級) で混合潤滑 → 摩擦係数が非線形上昇。単純線形モデルは追えない。
対策
| 対策 | 効果 | コスト |
|---|---|---|
sanity r2_min を下げる (0.5 → 0.3) | 実用値使える | 品質保証弱まる |
| データ点数増 (speeds 6→12, hold_s 長く) | SNR 改善 | 校正時間増 |
| 正転/逆転別 fit (coulomb_pos/neg) | 非対称吸収 | コード修正 |
| Stribeck model | 低速捉える | fit 複雑化 |
| 低速点除外 | R² 上がる | coulomb 精度低下 |
実用判断
多段ギア機構で R² 0.5-0.7 は「物理の上限」、モデルの欠陥ではなく事実。 FF ON/OFF で位相遅れが改善するなら R² の絶対値は気にせず値を使う。
実運用の順序
- まず動摩擦 (coulomb + viscous) を dwell fit で測る → FF に流す
- 動き出しが遅い / ぎこちないなら breakaway 補償 (stiction compensation) を追加
- 低速で stick-slip なら制御系剛性上げる or 指令を smooth に
- 高精度必要なら LuGre 等の履歴付きモデル
関連
- システム同定 — 摩擦係数の LS fit
- FF スタック — 摩擦補償の実装場所
- PID と FF 項の自動チューニング — dwell 測定手順
最終更新: